|| 何かと何かの結びつき
基本的な知識は『集合論』のページに載っています。
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目次
・写像「感覚的にはフィルターみたいなもの」
単射「一個一個繋がってる感じの写像」
全射「被ってでも全部繋がってる写像」
全単射「被りもなく要素が一対一で繋がってる写像」
逆写像「写像と像から得られる逆の処理」
部分写像「部分的に写らせるやつ」
恒等写像「変化しない写像」
合成写像「経由する感じの写像」
基本的な知識をとりあえずさらっとまとめます。
・写像「集合 S,T 間にある紐の集まりみたいなもの」
・関係「集合内での、元(要素)同士の対応」
・始域・定義域「 → の左のやつ」
・値域(像・終域)「 → の右のやつ」
・逆像「像から写像を辿ってできた、始域の部分集合」
写像 Mapping
|| あるもの A をあるもの B にするなにか
言ってしまえば「関数」みたいなもので、
これはそれより広い意味の概念になります。
\begin{array}{llllll} \displaystyle f(a)&=&b \\ \\ \\ F_0(a)&=&b \\ \\ F_1(a)&=&b_1,b_2 \\ \\ F_2(a)&=&∅ \end{array}
違いに関してはこんな感じで、
「関数 f 」は「一つの要素」しか出力しませんが、
「写像 F 」は「複数の要素」を出力することがあります。
意味のある写像
「写像」はすごく広い意味を持つので、
大半のものにはあまり意味はありません。
\begin{array}{lllll} \displaystyle 1&→&10 \\ \\ 2&→&13 \\ \\ 3&&18 \end{array}
例えばこういう
「特に規則性の無い写像」は確かに存在しますが、
こんなのがあっても、特に使い道はありませんよね?
ここで言いたいのはまあそういう話で、
一言で「写像」と言っても実際に使われるのは少数
\begin{array}{llllllllll} \displaystyle a_1≠a_2→f(a_1)≠f(a_2) &&\mathrm{Injection} & 単射 \\ \\ f(A)=B &&\mathrm{Surjection} &全射 \\ \\ f(a_n)=b_n && \mathrm{ Bijection } & 全単射 \\ \\ \\ f(a)=a && \mathrm{Identity} & 恒等写像\\ \\ f^{-1}(b)=a && \mathrm{ Inverse } & 逆写像 \\ \\ g(f(a)) = g(b)=c && \mathrm{Composition} &合成写像 \end{array}
見るのは以上の 6 つくらいで、
他のを見ることはほとんどありません。
単射 Injection, Injective Function
|| 一個一個が紐づいてる感じ
「一対一の写像」とか言われることもあります。
\begin{array}{llllll} \displaystyle A&=&\{1,2,3\} && \\ \\ B&=&\{5,6,7,8\} \end{array}
\begin{array}{llllll} \displaystyle 1 & → & 5 \\ \\ 2 &→& 6 \\ \\ 3 &→& 7 \\ \\ &&8 \end{array}
具体的にはこんな感じなので、
\mathrm{One\,to\,One\,Mapping} なんて言われることもありますね。
厳密な定義は↓
\begin{array}{llllllll} \displaystyle ∀e_1,e_2∈S&\Bigl[ & f(e_1)=f(e_2) &⇒& e_1=e_2 &\Bigr] \end{array}
全ての要素で、
像が一致するなら、必ず定義域の要素は同じ
この記号の意訳はこんな感じですね。
全射 Surjection, Onto Function
|| とりあえず全部写る感じ
被っても良いから「全部」写ります。
「定義域」から「終域の全て」の方向に。
\begin{array}{lllll} \displaystyle A&=&\{α,a\} \\ \\ B&=&\{β,b\} \end{array}
\begin{array}{llllll} \displaystyle α & → & β \\ \\ a &→& b \end{array}
\begin{array}{lllll} \displaystyle A&=&\{a,b,c\} \\ \\ B&=&\{α,β\} \end{array}
\begin{array}{llllll} \displaystyle a & → & α \\ \\ b &→& β \\ \\ c &→& α \end{array}
具体的にはこういう感じですから、
\mathrm{ Onto\,Mapping } とか言われたりもします。
厳密な定義は↓
\begin{array}{lllll} \displaystyle ∀b∈B & ∃a∈A & \displaystyle \Bigl[ & f(a)=b & \Bigr] \end{array}
全ての b で
b に紐づく a が必ずある
この形式表現を意訳するとこんな感じ。
全単射 Bijection, Bijective Function
|| 一つ一つが全部繋がってる感じ
「全て」「被りなく」繋がってる感じのやつがこれ。
感覚的には「 = 」みたいな感じのやつです。
\begin{array}{llllll} \displaystyle A&=&\{1,2,3\} \\ \\ B&=&\{5,6,7\} \end{array}
\begin{array}{lllllll} \displaystyle 1&\to&5 \\ \\ 2&\to&6 \\ \\ 3&\to&7 \end{array}
「一対一対応」とか \mathrm{ One\,to\,One\,Onto\,Mapping } とか
いろんな呼ばれ方があります。
厳密な定義は、
「全射であり」かつ「単射である」こと。
\begin{array}{llllll} \displaystyle ∀b∈B & ∃_1a∈A&\Bigl( &f(a)=b &\Bigr) \end{array}
形式表現としては、
「唯一存在記号 ∃!,∃_1 」ってのを使って、
こんな感じに表現されることがありますね。
ちなみに使用頻度で並べてみると、
\begin{array}{llllll} \mathrm{ one\,to\,one\,onto } &>& \mathrm{ one\,to\,one } &>>& \mathrm{ onto } \end{array}
この3つはこんな感じになります。
余談
なんとなく分かると思いますが、
人間の「同じ」という感覚は「全単射」の感覚に近いです。
「ほとんど全射でもある単射」とか
「被りがほとんど無い全射」とか
こういうのも実はそうなんですが、
基本的に、『同じ』というと、
その繋がりは「全単射」で表現されます。
イコールが起こす錯覚
イコール、つまり『同じ』という感覚は、
実は、そんなに実用性がありません。
というのも、人が感じる「同じ」という感覚は、
実際にはほぼ全て『類似・近似』なんですよ。
まあつまり「全単射」ではなく、
「全射に近い単射」「被りがほぼ無い全射」
この2つで2者が繋がる場合に「同じと感じる」わけで、
実際には『全て一致する』わけではありません。
まあつまり「同じ」は「同じ」だけではなく、
『似ている・近い』という感覚を内包していて、
実際には、
「同じ = 」の意味で使われることはほぼありません。
この辺りを意識すると勘違いが減るので
是非覚えておきましょう。
逆写像 Inverse Mapping
|| 像から、定義域へ
「写像」の『逆操作』のこと。
要は「逆関数」みたいなものです。
\begin{array}{llllll} \displaystyle f(x)&=&y&=&2x \\ \\ f^{-1}(y)&=&\displaystyle\frac{1}{2}y \end{array}
具体的にはこんな感じで、
「写像」と「像」があって、初めてこれは定義されます。
\begin{array}{lllllllllll} \Bigl[&f(x)=y&\Bigr]&⇔&\Bigl[& f^{-1}(y)&=&x&\Bigr] \end{array}
単一では定義されません。
部分写像 Partial Mapping
|| 写像の一部を切り抜いたやつ
これは「全域写像」と区別するための概念です。
「単射」を考える時、
「終域の全体」をカバーできるとは限りません。
それはつまり
「逆写像」を定義すると、
『定義域の一部分』にしか繋がらないってことで、
まあこういう時、この概念は使われることがあります。
あんまり使う単語じゃないですが、
一応、覚えておきましょう。
恒等写像 Identity Function
|| 自分から自分に写る感じ
字面通り「そのまま」の写し方をする「写像」のこと。
\begin{array}{lllllll} \displaystyle \mathrm{Id}_A &&1_A \\ \\ \mathrm{Id}_S &&1_S \end{array}
掛け算なら「 × 1 」
足し算なら「 +0 」みたいな
こういうやつをまとめて「恒等写像」と言います。
その性質上、必ず「全単射」です。
それに「定義域」と「終域」は必ず一致します。
合成 Composition
|| A→B→C なら A→C みたいな感じのやつ
まあ要は「複数の写像」を考えるためのやつです。
\begin{array}{llllllll} \displaystyle f&:&A&→&B \\ \\ g&:&B&→&C \\ \\ \\ g \circ f&:&A&→&B&→&C \\ \\ f;g&:&A&&→&&C \\ \\ fg &:&A&&→&&C \end{array}
「あれ」やったら「これ」になって「それ」になる
「あれ」やったら 「それ」になる
この感じ(推移律)を表現する考え方の一つで、
だいたいは「省略」のために使われますね。
ちなみに定義は↓
\begin{array}{llllll} \displaystyle g\circ f(x)&:=&g\Bigl(f(x)\Bigr) \end{array}
もしかすると、見慣れた書き方ですし、
こっちの方が分かりやすいかもしれません。
以下、詳しくは『代数学』で扱いますが、
この一連の操作は『単位律』と『結合律』を満たす、と。
意味分からんかもしれませんが、一応言っておきます。
\begin{array}{llllll} \displaystyle h \circ (g \circ f)&=&(h \circ g) \circ f &&結合律 \\ \\ \\ \mathrm{Id} \circ f&=&f \circ \mathrm{Id} \\ \\ &=&f && 単位律 \end{array}
以上を踏まえて、
最後に「逆写像」の性質を説明。
逆写像の性質
代表的なものを3つ紹介。
それぞれ「一意性」「対称性」「自己逆性」
厳つい感じの名前がついてますが、
そんな難しくないので身構えないでください。
一意性(それだけ、みたいな意味)
「逆写像」は一個しかありません。
\begin{array}{llllllll} \displaystyle f(x)&=&y \\ \\ \\ f^{-1}_a (y)&=&x \\ \\ f^{-1}_b (y)&=&x \end{array}
証明は単純
「逆写像」が 2 つあることを前提に話を進めていくと、
結果、その 2 つの「逆写像」が同じになる。
\begin{array}{lllllll} \displaystyle f^{-1}_a (f(x))&=&\mathrm{Id}(x) \\ \\ f^{-1}_b (f(x))&=&\mathrm{Id}(x) \\ \\ \\ f^{-1}_a \circ f &=& f^{-1}_b \circ f \\ \\ &=&\mathrm{Id} \end{array}
元の「写像 f(x)=y 」が一つしかない以上、
\begin{array}{llllll} \displaystyle f^{-1}_a &=& \mathrm{Id} \circ f^{-1}_a \\ \\ &=& (f^{-1}_b \circ f) \circ f^{-1}_a \\ \\ &=& f^{-1}_b \circ (f \circ f^{-1}_a) \\ \\ &=& f^{-1}_b \circ \mathrm{Id} \\ \\ &=& f^{-1}_b \end{array}
これは必然的にこうなります。
対称性
逆の逆は、みたいなやつ。
\begin{array}{llllll} \displaystyle (f^{-1})^{-1}&=&f \end{array}
これも合成写像と同様、
形式表現を見た方が分かりやすいかもしれません。
自己逆性
「恒等写像」は「逆写像」でもある。
\begin{array}{llllll} \displaystyle \mathrm{Id}^{-1}&=&\mathrm{Id} \end{array}
これはすぐにわかることなので説明不要でしょう。
以上、「写像」の基礎はこんな感じ。
『ベルンシュタインの定理』(単射と全単射の関係)
みたいな重要な定理もありますが、
そういうのは長くなるので別記事で。